Love Story

片想い

「疲れた」
 仕事から帰り、発泡酒片手に定位置であるテレビ前にへたり込みながら言う台詞はこのところ決まっている。
 とりあえずテレビをつけ、垂らしていた髪を頭の上のほうでお団子にまとめる。
 それからチャンネルを回し、好きな番組を探す。いつも良い番組が見つかるわけでもなく、今日も適当なクイズ番組で妥協する。
 発泡酒をのどに流し込みつつ、郵便受けからとってきた手紙の束をより分ける。相変わらずダイレクトメールや広告ばかり。だが、今日は同窓会の通知書が紛れ込んでいた。
 差出人は大学時代の友人で同じ部活の仲間だった新山明海。卒業して三年。仲の良かった部内のメンバーで一度食事でもしようという内容で、携帯の番号とメルアドが書かれていた。

 早速了承のメールを送る。
 出来合いの惣菜で夕食を済まし、シャワーを浴び終わるころようやく返信がきた。
『都合の良い日、悪い日ある?』
 しばらく考えてみるが、思い当たらない。
『土日祝日だったら大丈夫』
 送信し、今度はすぐ返信がきた。
『今、調整してる。来月の三週目くらいになりそう』
『了解』
 カレンダーを見上げる。
 三週目というと、ちょうど春休みの時期にあたる。新学期の準備で忙しい時期ではあるが、たまには気晴らしもいいだろう。
 日程が決まったとメールが入ったのは翌日の昼頃だった。

     *

「こんばんわ、久しぶり」
 少々早いくらいかとも思っていたが、指定された店内には沙織の見知った顔がいくつもあった。
「沙織、こっち」
 明海が手招きするので、隣の席に腰を下ろす。
「変わらないわね、明海」
「あんたもね」
 前回会ったのは夏だっただろうか。大学時代はほぼ毎日顔を会わせていたのに、卒業してからは顔を会わせる頻度は急速に落ちている。
「髪、切らないの?」
 明海に言われ、沙織は恥ずかしげに髪に手をやる。何の手も加えていない髪は黒く、ストレート。前髪は短く切りそろえているが、せっかくここまで伸びた髪を切るのはもったいない気がしてそのままにしている。
「切ろうとは思うんだけど、なかなか決心つかなくて」
 伸ばし始めたのは願掛けだった。だが、それほど髪が伸びもしないうちに沙織の願いはたたれ、以後は惰性で伸ばしているに過ぎない。
 そんなことわかっているが、まだ、自分の中に未練があるのか沙織は髪を切ることができない。
「そう――それより、今日はスペシャルゲストがあるのよ」
 明海はにんまりと顔いっぱいに笑みを浮かべる。あまり大きな声ではなかったのだが、
「ゲスト?」
「誰?」
 近場にいた数人が明海の発言を聞き取ったらしい。やがてそれは全体に伝わり、誰だろうと推測する声がささやかれ始める。
「ゲストがついてのお楽しみ。さて、時間過ぎたけど……来てないのが二・三人いるわね」
「放っとけ、放っとけ」
 あのころと変わらない合いの手を入れる山崎にどっと笑い声が起こる。
「じゃ、富山君音頭お願い」
 明海は慣れた様子で司会進行を務めている。
「おっしゃ」
 山崎の隣に座っていた富山がわざわざ立ちあがる。山崎に負けないくらい体格が良いので、立ち上がると迫力がある。
「長い前置きはまた今度ということで――」
 懐かしい決まり文句。
「乾杯!」
「乾杯!」
 口々に交わされる声と、グラスのぶつかる音が幾重にも響く。
「懐かしいわね」
 沙織はビールに口をつけながら、集まった顔ぶれを見る。三年の年月が流れているが、みな変わらない。社会人になり、それなりに落ち着きは出てきているがあのころのままだ。それがとても嬉しい。

 飲み会が始まって三十分ほど経ったころ、席に一人の男が現れる。明海は待ってましたとばかり顔を輝かせ、沙織は顔をこわばらせる。
「スペシャルゲストの小川先輩がいらっしゃいました! みんな拍手!」
 パチパチ手を打ち鳴らす音が響く。小川先輩は面倒見の良い、とても優しい人で、誰からも慕われていた。
「ごめん、連れがいるんだけどいい?」
 相変わらず困ったような表情を浮かべ、後輩たちを見やる。誰も反対しないだろうことがわかっていつつも一応伺いを立てる。
「どうも」
 嬉しさを隠し切れず、それでもふて腐れた顔を作った男が顔をのぞかせると、悲鳴と歓声が入り混じる。
「河野先輩、呼んでませんよ?」
 言いつつも、明海は嬉しそうな顔。そして、それはみんなも同じ。口では嫌そうなことを言いつつ、顔は嬉しそうだ。
 小川先輩と河野は大学時代から仲が良く、たいてい二人一緒にいた。小川先輩に声をかけるということは、自動的に河野にも声をかけるということで――あたりまえのことだったのに、なぜか今回、明海は小川先輩だけを呼んだように振舞う。
 沙織は不思議に思うが、アルコールの入った頭は考えるのを嫌がる。
 先輩たちは富山、山崎コンビとともに酒を飲み始める。誰からともなく注がれるビールに困った顔をしながらも文句をいわない小川先輩。注がれたら注ぎ返し、言われたら言い返す河野先輩。性格の違う二人だが、後輩たちからは同じくらい慕われている。

 一時間ほど経ち、酔った連中が出始めると、明海は二次会に移るべく店を移動するよう告げる。次はカラオケらしい。
 沙織は明日早くから用事があるから、と引き止める明海に断りを入れ、駅に向かう。
「樋口」
 いきなり肩を叩かれ、沙織はギョッと振り向く。
「――河野……先輩」
「話がある」
「ありません」
 立ち去ろうとするが、無理やりファミレスに連れて行かれる。

 ウェイトレスにコーヒーを注文し、沙織は対面に座っている河野を睨み付ける。
「なんの話ですか?」
 河野は言いにくそうに視線をそらし、やがて、
「まだ髪、伸ばしてんのか?」
 飲み会の最中もちょくちょく沙織の方を見ていた。沙織は気づいていたが、気づかないふりをしていた。
「別に」
「まだ未練、あるのか?」
「……」
 何も言えない。
 大学時代、沙織は穏やかな雰囲気を持ち、いつも優しい言葉をかけてくれる小川先輩が好きだった。願掛けに髪を伸ばし始めたのだが、それを知っているのは明海と河野。
 小川が他の大学に通っている女性と学生結婚し、それを知った沙織が飲み会で無茶に呑んだとき、胸に秘めていた思いを吐露してしまったからだ。
 言葉を待つように、河野はじっと沙織を見詰めている。
「いえ。ただ、なんとなく……」
 未練がないとはいえない。けれど、小川先輩のことを考えることなどこのところはなかった。忘れていた。
 小川先輩を久々に見て、あの頃と同じように胸は高鳴り、苦しくなった。けれど、幸福そうに家族について語り、嬉しげに娘の写真を見せていた姿に、沙織はほっとした。
 大好きだった小川先輩が幸福そうにしている、その姿が嬉しかった。
 あの頃、もし自分が告白していたら何かが変わっていただろうか?
 ビールを飲みながら自問してみた。けれど、いくら考えてもあの頃の自分には告白する勇気など少しもなかった。
 もしかしたら、小川先輩に対する想いは憧れだったのかもしれない。純粋に、純真にただ、ひたすらに。恋と勘違いするほど強烈に。
 願掛けで伸ばし始めた髪を切らないのは、小川先輩に未だに恋心を抱いているからじゃない。それは確実なこと。
 考え込む沙織に河野は寂しげな微笑を浮かべる。
「そうか……なんとなく、か」
 沙織は視線を手元に移す。
 河野はいつも騒ぐメンバーの中心にいて、それをただ見つめているだけの沙織とはあまり接点がない。なのに、沙織が失恋してからは時々話かけてくるようになった。
 河野は優しい。憎まれ口をきくけれど、みんな頼りになるお兄さんとして慕っている。小川先輩とは違う優しさを持っている。
 私に優しいのもきっと、そういう理由からだ。
「なんとなくです」
 沙織は居たたまれなくなり、小さな声で繰り返す。
 他にどういえば言いのだろう。切ろうとは思うのだが、せっかくここまで伸ばすともったいない気がして切れない。そう言えば納得してくれるだろうか。
「ま、その頭も樋口似合ってるしな」
 そう言った河野の顔には不敵な笑みが浮かんでいる。先ほどまでと空気が変わり、沙織はほっと胸をなでおろす。
「そういえば――あれ、使ってくれてる?」
 河野の言うあれは、あれしかない。
「捨てました」
 沙織は即答する。
 捨てたというより、捨てるのも恥ずかしいので押入れのどこかにしまいこんだはずだがそこまで丁寧には教えない。
「何で? 可愛かったじゃん」
「猫、大嫌いだって言いましたよね?」
 意地になって言い返すと、河野は腹の底から可笑しそうに笑う。
 失恋してしばらく、沙織は無茶に酒を飲むばかりしていた。そんな折、酔った沙織のカチューシャを河野が勝手に猫耳のついたカチューシャに変えてしまい、沙織は気づかず、居酒屋から家まで猫耳をつけたまま帰ってしまったという消し去りたい過去がある。
 そのときはよほど髪を切ってしまおうかとも思ったのだが、いざとなるとやはり切ることができず、沙織はカチューシャがいらないよう前髪を短く切り、酒を控えた。
「ま、樋口が元気そうで何よりだよ」
 ポツリと嬉しそうに呟く河野。小川先輩に似た、穏やかな空気――河野も不意にそんな空気をまとうことがある。そんな時、沙織の心の奥がちくりと痛むこと、知っているのだろうか。
「先輩もお元気そうで」
「ハハ、先輩か」
「……先輩です」
 猫耳カチューシャの件もあり、沙織は在籍中「河野」と呼び捨てていた。
「樋口も成長したな」
「おかげさまで」

 駅に向かって歩き出す。
 懐かしい大学時代の思い出話に花を咲かせていたのだが、別れ際になってまた河野は話を蒸し返した。
「髪、本当に切らないのか?」
 酔っ払いはしつこい。
 結婚した相手に横恋慕するほど、私は馬鹿じゃない。いいかげんにして欲しい。
 沙織は澄ました顔で、嫌味を言う。
「先輩、髪の長い人がタイプじゃありませんでした?」
 言い返したとたん、河野の顔が赤くなる。
「お、おま、お前――」
 激しく動揺している。言葉になってない。
「知ってたのか!」
「知ってましたよ」
「くぅぅぅぅ……すごい悩んだ俺は馬鹿か?」
 なんだか知らないが、相当ダメージを与えたらしい。嬉しくなって沙織は言葉を続ける。
「馬鹿ですよ、大馬鹿です、先輩は」
「何だよ、知ってるなら言ってくれよ」
「何でですか?」
「性格悪いな」
「先輩ほどじゃないですよ」
「まぁいい。改めて言わせてくれ」
「何をですか」
「付き合ってくれ」
「どこに?」
「……そうだな、早速だが明日あたりに映画にでもってオイ」
「ハイ?」
「漫才か? 漫才をやりたいのか?」
「何がですか?」
「俺は交際してくれっていってんだ!」
「――――――ハイ?」
「交際、わかるか? 恋人になってくれって言ってるんだが」
「……」
「わかってくれ、頼むから。俺が間抜けみたいじゃないか」
 泣きそうでいて、怒った、真剣な顔。
 沙織はなんと答えていいものやらわからず、
「え、映画くらいなら……」
「良し。明日の十一時にここで待ち合わせだ。忘れるなよ」
 捨て台詞を残して逃げ去る子悪党のように河野は立ち去っていった。

 沙織が言われた言葉を理解したのはアパートにたどり着き、定位置に腰をおろしてだった。
「……告白された」
 自分で呟いた声に、ぎょっとする。そんなわけないと思うが、あれはどう考えても「告白」以外には考えられず、
「明日の十一時に駅前――だったっけ?」
 時計を見上げるとすでに深夜二時近い。帰ってきてから四時間以上経過している。早く寝なければと思うほど寝つけない。河野の告白が渦を巻くように脳内で繰り返し(漫才部分はカットされた状態で)再生される。

 眩しい、と沙織が目を覚ましたのは九時近い時刻。二度寝をしようと思ったが、眠りかける寸前、河野との約束を思い出ししぶしぶ起きだす。約束を破ったらどんな嫌がらせをされるかわからない――大学時代のようだと笑みを漏らす。
 携帯には昨日のメンバーからの着信履歴とメールがたくさん入っていた。トーストをかじりつつ、メールを確認する。
 ほとんどは『楽しかった』『また飲み会しよう』という内容だったのだが、明海からのメールは意味深だった。
『河野先輩とうまくいった?』
 明海は何を、どこまで知っているのだろう。沙織は首をひねる。
『告白された。映画を見に行く』
 昨日の今日なので、明海は二日酔いでつぶれていると思っていたのだが――携帯が鳴る。相手は明海。
「もしもし?」
「沙織、おはよう」
「おはよう、明海大丈夫? 昨日はずいぶん飲んでたけど?」
「ちょっと頭痛いけど、問題ないわよ。私、お酒強いし」
 大学時代、ウワバミとして知られていただけのことはある。
「それより、おめでとう」
「……何が?」
「河野先輩とのこと。付き合うんでしょ?」
「いや、あのさ、そのことなんだけれど。明海は知ってたの?」
 沈黙の後、明海は思い切ったように口を開いた。
「大学時代にね、私、河野先輩に告白したんだ」
「――え?」
 初めて聞く。明海とはずいぶんいろんな話をしたはずなのに、そういえば恋愛の話はあまりしなかったことにいまさら気づく。
「見事に振られたんだけど、諦めきれなくて、ずっと河野先輩のこと見てた。だから、河野先輩が誰を好きなのか、私は知ってた」
「……そう」
「沙織が落ち込んだとき、河野先輩、誰よりも優しく沙織に接してた。でも、沙織はちっとも気づいてなくて――」
 その通り。沙織は気づかれないよう苦笑する。河野には嫌がらせを受けていたという記憶しかない。
「私、沙織にははっきり言わないと伝わらないって河野先輩に言ったの。でも、先輩は今のままでいたいからって沙織に気持ちを伝えなかった」
「うん」
 うなづきながら、沙織はその頃のことを思い出す。
 いつも、河野が何か言いたそうにしていたことには気づいていた。けれど結局、河野は何も言わなかったし、言おうとすれば沙織は巧みに話題をそらした。
 河野にはみんなとじゃれているときのような不遜な態度のままでいて欲しかった。でも、河野は時々とても優しい雰囲気をまとう。それが小川先輩を連想させ、失恋したばかりの沙織には居心地が悪かった。
「二月の中頃だったかな、偶然街で小川先輩に会ったの。最初は当り障りのない昔話をしてたんだけど――

「新山は河野と寄りを戻す気はないの?」
 運ばれてきたコーヒーにミルクを入れつつ、小川は探るような目線を明海に向ける。
 明海はオレンジジュースをストローでかき混ぜつつ、眉間にしわを寄せる。考え込むときの彼女の癖。
「河野と付き合ってたよね? 大学時代、仲良さそうにしてた女性は新山以外考えられないし」
 明海はやっと納得のいった表情で、
「いいえ、振られたんですよ、私」
「え? じゃあ、河野が引きずってる相手って誰?」
 不思議そうな顔。明海はにやりと微笑んで、
「沙織ですよ。樋口沙織」
「……新山の友達だっけ? ――そう言えば三人一緒によくいたね」
 沙織を河野が構い、そんな二人を明海が構っていた。そういう構図だったが周囲には見えていなかったらしい。
「河野が好きなのは樋口だったのか」
 はっきりと沙織の顔を思い出せない様子でながらも、小川はうなづく。明海は顔に笑みを貼り付けたまま、
「沙織はね、小川先輩のことが好きだったんですよ」
「僕?」
「そう。でも先輩が電撃結婚しちゃったから、すごくショック受けて――河野先輩が慰めてたけど、沙織は恋愛する気なくしちゃったんです。だから優しい優しい河野先輩は告白しなかった」
 明海は大げさにため息をつく。
「じゃ、何。僕が悪いわけ?」
「そうですよ。小川先輩が諸悪の根源なんです」
「そうか――」
 大してダメージを受けた様子もなく小川は微笑み、
「じゃ、結果はどうなろうと、まずは河野に告白させないといけないわけだ」
「そうですね。二人が一緒になるよう……ついでに同窓会しません?」
「いいね」
「じゃ、決まりで。河野先輩には振られるように願ってるって伝えて下さい」
「わかった」

――ってわけ」
「なんで小川先輩に言っちゃうのよ!」
「別にいいじゃない。あんたもきちんと振られれば納得するでしょ?」
「振られなくても、先輩結婚した時点で吹っ切れたわ」
「吹っ切れた人間が記憶無くすほどお酒飲んだりするもんですか」
 嫌味な笑い声が電話口から響く。沙織はぎゅっと手を握り締め、
「でも、いいの? 明海は河野のことが好きなんでしょ?」
「それは過去の話。今現在、私には婚約者がいるのよ」
「え? そんな話聞いてない!」
「言ってないもの」
 再び聞こえる楽しそうな笑い声。
「相手はすっごくいい人よ。河野先輩よりもね」
「それは言いすぎなんじゃない?」
「そうかしら? 河野先輩より絶対優しいし、いい男だわ」
「河野のほうが優しいよ」
 自分が口にした言葉に気づき、沙織は顔を赤らめる。
「沙織、素直になりなさい」
 優しい声。あの頃、沙織が立ち直れたのは河野と明海のおかげだ。
「私は素直よ」
 答える沙織は素直じゃない。それは本人自身が一番わかっている。
「じゃ、どうすればいいのかわかってるわね?」
「わからない」
「そう、良かった」
 会話にならない会話をし、
「幸せにね」
「ありがと」
 短い言葉をようやく返した。

 待ち合わせ場所に沙織が時間ぎりぎりにたどり着くと、優しい顔をした河野がたたずんでいた。沙織の姿を見つけると、ますます、身にまとう空気が穏やかになる。
「ずるいずるいずるい……」
 呪文のように沙織は何度も口の中で唱える。
「何が?」
 河野は何を言われているのか理解できない顔。
「お待たせしてすいません」
 だが、ぶきらっぽうに頭を下げる沙織の言葉に、河野は嬉しそうに言葉を返す。
「待ってないよ」
 顔を上げた沙織は、真正面から河野の顔を見る。
 あの頃も、ふと気づけば河野はこの顔をして沙織を見ていた。沙織は気づいていたけれど、気づいてはいけない顔だと目をそらしていた。
 明海と、自分と、河野と。三人でずっと仲良くしているためには見てはいけない顔。
「――そんな顔、しないで下さい」
「そんなって、どんな?」
「……」
 沙織は答えず、
「昨日の返事、まだでしたね」
「あ? え――」
 とたん、不機嫌そうな顔になる。河野らしい顔だと沙織は微笑み、頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」

| 目次 |

『片想い』をご覧いただきありがとうございました。

2005/9/5 自己嫌悪。とにかく自己嫌悪。このネタを思いついたとき、ならびに書いてた時は普通に、なんとも思わず書いてたのに、細かいとこを直すだんになってようやく正気に返る。なんでしょうね、この恥ずかしい話は……。
『別名・恋人の樹伝説』書いてて、話につまってどうしようもなくなった時に登場人物たちのイラストを描いたのです。そのとき、樋口さんは前髪は短めで、後ろで髪を二つにくくるという髪型だったので、なんでそんな髪型にしたのか理由を考えてたら猫耳カチューシャを酔ったときに先輩が……というネタが降臨。樋口さんは現代国語の先生ですが、服装は白のポロシャツ愛用で体育会系です。しっかりものに見えて、実はそうでもないってのは『別名・恋人の樹伝説』読むとわかります。
河野はきっと、酔って寝ちゃった樋口さんの髪の毛さわってたんでしょう。で、それを明海に見つかって「髪の長い子が好きなの?」「……悪いか」ってな話に。それをまどろんでた樋口さんが自分のことだなんて思いもせず聞いてた、と。 →オマケ

2012/01/19 訂正

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