05:いたずらって何?

「ああ、あのあれはちょっとしたいたずらで……」
と、ほろ酔い加減の笠巻嬢がようやく口を滑らせた。
 全国展開してる居酒屋の個室。呑み始めて1時間ちょい。ちなみに私は3杯目のハイボールに口をつけたところ。今宵のメンバーは私、隣りに篠崎紡、篠崎の向かいに手塚正樹とその隣に腰を下ろしているのが先日、手塚と婚約した笠巻史恵さん。
 3人が暖簾をくぐりかけたところ、偶然通りかかった私が無理矢理、合流したって展開。
「それより、他に注文ない? 俺、ビールもう1杯頼むけど」
「飲みすぎだよ、お前。枝豆食えよ、まだあるんだから」
「あ。私、湯豆腐食べたい」
 また話がそれた。
 何なのこの話の流れ。私さっきからずっと二人の馴れ初め聞いてるのに、一向に誰にも答えてもらえない。
 幼馴染ではあるものの手塚は謎の男だ。昔から三人集まれば、手塚が勝手気ままにふるまい、私がキレ、篠崎がなだめる。っていう、混沌とした状態に陥る。
 だから、私は手塚が嫌いだ。嫌いだけれど、婚約したと聞けば興味がある。異星人のような手塚を好きになったきっかけを知りたい。あの手塚の何処が良くて婚約することに決めたのかを知りたい。
 笠巻嬢とは始めましてな関係だから、いきなり本題に突撃するのではなく、世間話を交えつつ、適度なアルコールの力も借りて、情報を得ようと試みているわけだけど……。
 ぐいっとジョッキを傾けて、
「笠巻さん、話、続けて」
「話? なんの話でしたっけ?」
「ほら、いたずらよ。いたずらって何?」
「いたずら?」
 大根おろしてんこ盛りの焼き厚揚げを小さく切り分けながら、笠巻さんはクエスチョンマーク。
 この女のアタマは鳥並みか。それとも単にアルコールに弱いだけか。私の作戦が失敗で、呑ませ過ぎたんだろうか。
「手塚と知り合った経緯よ。ちょっとしたいたずらだったんでしょ?」
「ああ、あれ。そんなこと、私、言いましたっけ。でも大した話じゃないんです」
「なんでも言いから聞かせてよ。小さいことでいいから」
「笠巻さん、お酒ないじゃん。追加追加、何がいい?」
 篠崎がメニュー表を広げる。
 かいがいしく世話焼きな篠崎は他人に興味を持たない適当男でもある。二人の馴れ初めなんて絶対、聞いてないだろうし興味もないだろう。
「えぇっとですね……」
 笠巻嬢がカラフルなカクテル表を見始めた。
 何で選ぶのにこんなに時間が掛かるんだろう、この女。これでまた5分は時間がつぶれる。また一から仕切り直して聞かなきゃならない。ああ、たいしたことじゃないいたずらで、異星人の手塚と婚約することになったいきさつって何なんだろう。
 私はジョッキを傾ける。

ご覧いただきありがとうございました。〔2020/05/25〕

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題

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