世界に一つだけの花
新聞を取り入れようと、玄関を開けるとそこに雑草が生えていた。昨日まではなかったものである。三十センチほどの高さのあるそれは
邪魔だ、とは思うのだが、花が咲けばとても綺麗なので、駆除する人は少ない。それがますますはびこらせる原因を作っているのだが。
「どうしよう」
私は迷っていた。一度、友人の家でその花が咲いているのを見たことがある。真綿のような白く、両手で覆うほどの大きな花が咲いていた。蓮の少し開きかけたようすに似た花。儚く、尊い雰囲気をした雑草とはとても呼べない姿を思い浮かべる。
他にもピンクやらブルー、黄色っぽいのもあるらしい。
「どうしよう」
思いつつも、玄関のまん前。つぼみを一つ地面近くから折り取る。
リンゴン
何の音だ? 首を傾げるが、それがすぐに片手に持ったつぼみから聞こえてきていることに気づいた。
「なんだ?」
振ってみる。
リンゴン リンゴン リンゴン
音の鳴る花など聞いたことが無い。いや、友人宅で見た花の中に音の鳴るような器官は無かった。
リンゴン リンゴン リンゴン
その前にこの花が鳴るというのを聞いたのが始めてかもしれない。マスコミに電話だ! 思い立ったが吉日。
翌日、朝から大騒ぎになった。この花、場所によって色や花びらの形、葉の形が微妙に異なるというのは聞いたことがあったが、やはり音が鳴るのは新種らしい。
どこかの大学の教授だとか言う団体がやってきて、つぼみを片っ端から持っていった。花が咲くのを見れなくなってしまった。マスコミに知らせたのは私だが、少し恨めしい。
翌朝。目が覚めると茶の間のサンセベリアの鉢に、二十センチくらいの植物が植わっていた。つぼみをゆすると、小さいが、あの音。
リンリン リンリン
私は花が咲くまで、誰にも知らせないことにした。
2004年04月30日 蓮の花に似た、って書いてますが、実際はどんな姿かたちをしてたのか覚えてません。その花を見た(夢の)私が、「蓮の花に似てる・・・」と思ってたので、そう書いてますが。チューリップに似ていたような気もしますけれど。
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