ブレーキがきかない?

 あたしはこの小さな町で、父さんの後を引き継いで女だてらに火消しなんてやってる。こんな小さな町だから火事、なんて大げさなものは本当に少ない。だから普段は母さんの店――食堂を手伝ってる。
「ほら、これお客さんとこに運んで。角に座ってるお客さんだよ」
「はーい」
 ビーフシチューを持ち上げたところで、
「火事だぁ!」
 外から誰のもともとわからぬ男の声。
「うっしゃ、私の出番ね!」
「ちょっとお客さんのとこに運んでから!」
「そんな暇はないの! 火事は時間との戦いよ!!」
 あたしはシチューを近くの人(お客さんかも)に押し付けて、だっと消防グッズの置かれた物置へ。母さんはここを物置代わりにも使ってるから、荷物はやたら多い。
 銀色に輝く作業着を手早く着込み(記録更新!60秒切った)、水鉄砲にも似たポンプを手に家を飛び出す。

 きょろきょろと見回すと煙のあがっているのは・・・マイヤの店。
「うっしゃ!」
 再び気合を入れて、
「どいて、どいて、どいて!!」
 あたしは駆け出す。70mくらいしか離れてないから。

「みんな落ち着いて!」
 声をかけつつ現場に急ぐ。野次馬って本当に邪魔! 何とか人ごみを掻き分けて店の中に入ってみると、
「・・・・・・火事?」
 首を傾げるしかない状況。テーブルクロスは燃えて燻(くすぶ)っていたけれど・・・
「すまん、ついうたた寝しとったもんじゃから・・・」
 親父さんが恥ずかしそうに頭をかく。
 まったく、パイプの火くらい始末してから寝てよ!
「でもま、一応私の仕事させてもらうから」
 いい置き、親父さんもろとも水を浴びせる。
「な、何をっ!」
「お仕置きってやつよ。今度こんな馬鹿げた騒ぎを起こしたら、ひどいわよ!」
 あたしのこの台詞に親父さん、青ざめる。日ごろから行いが良いと言葉の信用性も高い。
「ほんじゃ!」
 あたしは一仕事終えた後の充実感をかみ締めながら家路へ足を向ける。両脇を人が引く波のようによけてくれるのも気分がいい。私の顔を恐ろしそうに見るのはちょっといただけないけれど。
「下の町で事件だ!」
 どこの誰とも知らぬ声。
 火事じゃなけりゃあたしにゃ関係ない。そう思って歩みを速めたり、耳をそばだてたりしなかったのが運のつき。
「どいてぇぇぇぇぇぇ」
 悲鳴のような、叫び声がしたと思えばあたしは車の中に引きずり込まれてた。
「な、何、何事!?」
 自体が飲み込めないあたし。
「これ、ブレーキがきかないんだ」
「・・・・・・は?」
 あたしは聞き返すしかない。
「ブレーキがきかない?」
 町は山の上にある。この道は山の下にある町に続いてる・・・あの、ちょっと。
「ごめん―――」
 泣き声とともにジェットコースター状態に突入した。あたしは吹き付ける風を顔面に受け止めながら、なんだか胸がわくわくしてた。

2003年12月7日 今回もなんだかよくわからない主人公は「あたし」という若い女性。20歳前後で、ゴールデンレトリーバーのような小麦色?の髪。太陽の下では金色なんだけれど、部屋の中ではブラウン。癖がひどいのか、パーマをかけているのか細かい、くしゃくしゃの髪で、それを頭の上のほうで二つに結いあげてます。暖かい町らしく(西部っぽい雰囲気)、「あたし」はノースリーブの黄緑色の綿シャツにピンクのズボン(赤い縁取り)と、ずいぶん派手というか、陽気な格好。
最後に出てくる車なんですが……どちらかというと配膳車のような銀色のブレーキなどついていない物のような……なんやろなぁ???

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