ニュー・アトラクション
「Hi!私ジェシーよ」
と、そばかすのある明るい笑顔で彼女は元気に微笑みかける。
長い金髪を無造作に束ね、鮮やかなブルーのTシャツに、泥で茶色に汚れた元は白かっただろうつなぎを腰に結びつけている。頭には工事現場用の黄色のヘルメットに懐中電灯。手は汚れた軍手。
もともとがそうなのか、吹きかえられた声は妙にテンション高く、明るい。
「今日はみんなに私の作ったニュー・アトラクションを案内するわね」
「やぁ、ジェシー」
と唐突に登場したのは、人の良さげな50代くらいの白髪の男性。小太りで背丈は彼女ほど。
「君の作ったアトラクションをみんなに紹介するんだって?」
何だかアメリカンショッピングのごとき展開になってきたなぁと思いつつも話は進んでいく。
「そうよ、ジョージ」
彼女は男性にではなく私、こちらに向かって笑顔。
「カモン」
とジェシーはそこだけ英語っぽい発音で手招きし、
「こっちよ」
茶色の岩肌に彫られた、人が一人、はいつくばって入れるほどの穴の中に入っていく。
ジョージは残念そうな顔をしながら、
「私は無理なんだよ、それよりも、さぁ、早く入らなきゃ」
と穴の中に入るのを強固に進める。
穴の中に入ると、思っていたよりもやや広め。
赤ちゃんがハイハイするような格好で中を進んでいく。
「気をつけてね、狭いから」
確かに。こちらも電灯をつけているのだが、見えるのはジェシーの足ばかり。ものものしい重たげなブーツをはいている。
「ここからスタートよ」
声とともにジェシーは消える。
真っ暗な闇の中、ジェシーの奇声が穴の中に響き渡る。
私の視界も続いて闇に吸い込まれ…ものすごいスピードで流れてゆく。
「暗い穴の中を滑ってます。どこに続いているのかわかりません」
震える声でのナレーション。そしてジェシーの奇声だけが聞こえる。
「うわっ!!!」
地底湖。
10メートルはあろうか眼下に広がる波しぶき。
岩に打ち付け、砕かれる凶暴な波、波、波。
どこからかの明かりでそれが荒々しく眼下に見える。
「落ちるぅぅぅぅ!!」
悲鳴。男性の、恐怖の悲鳴に似た声。
「っう!?」
下から巨大な力に押し上げられる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
先ほど落ちてきた穴よりもはるかに高い穴の中に押しやられる。
そしてまた滑り落ちる。
「明かりです」
地獄に一輪の花を見つけたような、砂漠でオアシスを見つけたような声。
「明かりが見えます!出口でしょうか!?」
どたっ
アニメチックな音を立てて視界は大地、そして高く、青い空を映し出す。
涙が出るくらいのどかな空。
白い雲が浮かび、高いところを鳥が一羽飛んでいる。
「どう、楽しかったでしょ?」
ジェシーが立ち上がるのに手を差し出しながら笑いかける。
「ここ、すごいでしょ?こんな山の中なのに、この岩のちょうど真下には海があるのよ!これを発見したときに、このアトラクションを思いついたの。真っ暗闇の中を滑り降りる恐怖!そしてバンジージャンプやスカイダイビングのごとき落下の恐怖!これほどのアトラクションって、他にはないでしょ?」
にやりと商売人の笑み。
ふらふらとプロ根性で立ち上がりながら、画面はジョージを映す。
「どこからに小さな穴があいてるらしくてね、ものすごい突風が噴出すようになってるんだよ」
「どうやって作ったんですか?」
いまだに震えのとまらない男の声に、
「簡単よ、この岩、すごく簡単に掘れるのよ」
ジェシーとジョージは笑いながら話を続けた。
02/12/17 今回はカメラマンの視点でした。そして、臨場感溢れるテレビの前の視聴者の視点でもありました。なんだか楽しかったです。
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