そして…
「もう冬なのですね」
私の声が響きます
「ええ、ですから私が居るのです」
凍てつかせるような声がします
「あなたの名前はなんと言うのですか」
私の問いに
「さあ、ここではなんと呼ばれていたのでしょう」
その人は雪の結晶のような笑みを浮かべて答えました
「もう春なのですね」
私の声が響きます
「ええ、たのしい季節です」
その声は雪解けのような響きを持って聞こえました
「どうしてそんなに嬉しそうなのですか」
私の問いに
「幸せがあちこちにあるからです」
その人は花の開くときのような笑みを浮かべて答えました
「もう夏ですね」
私の声が響きます
「ええ、短く楽しい季節です」
二人は声をそろえて答えます
それは真夏の昼と夜がとけあったようなハァモニィです
「あなた達の名前はなんと言うのですか」
私の問いに
「好きな名で呼んでください」
その人達は昼の喧噪のような、夜の静寂のような笑みを浮かべて答えました
「もう秋なのですね」
私の声が響きます
「ええ、そうですね」
物悲しそうな顔をした人は、憂いた声で答えます
「どうしてそんなに悲しそうなんですか」
私の問いに
「どうしてでしょう」
その人は秋の虫の音、風の音のような声で答えます
「また会いましたね」
冷たい声がします
「また会いましたね」
私は答えます
「いつからそこに居るのですか」
氷細工のような声で私に尋ねます
「いつからここに居たのでしょうか」
私は答えます
いつしか姿はありません
あたりは春になっています
「また会いましたね」
暖かい声がします
「また会いましたね」
私は答えます
「いつまでそこに居るのですか」
桜の散るような華やかさで私に尋ねます
「いつまでここに居なければならないのでしょう」
私は答えます
いつしか姿はありません
あたりは夏になっています
「また会いましたね」
熱い声がします
「また会いましたね」
私は答えます
「どうしてそこに居るのですか」
お祭りのような声で私に尋ねました
「どうしてここに居るのでしょう」
私は答えます
いつしか姿はありません
あたりは秋になっています
「また会いましたね」
寒い声がします
「また会いましたね」
私は答えます
「一緒に行きませんか」
十五夜のような声で私に尋ねます
「どこへ行くのですか」
私は答えます
「さあ、立って」
白い着物をまとった人が言いました
「もうこんな季節なのですか」
私が答えます
「ええ、さあ行きましょう」
吹き付ける吹雪のような力で私は手を取られました
「どこへ行くのですか」
私は尋ねます
「あなたの知らないところです」
小川のせせらぎのような声がします
「私の知らないところとはどこですか」
私は尋ねます
「どこでもです」
蝉が鳴きだしそうな暑い声がします
「良いところなのですか」
私は尋ねます
「そこはすばらしいところです」
秋風にゆれる金色の稲穂のような声がします
「それは楽しみです」
私は静かに答えました
01/05/13
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