Love Story

「――ってことがあったわけ。河野、最悪だと思わない?」
 電話口。愚痴愚痴と沙織から聞かされた話に、明海は盛大なため息をついた。
 沙織からすれば、河野という存在は天敵、もしくはいじめっ子。けれど、傍から見ていてれば、仲の良いカップルがいちゃついているようにしか見えない。
 実際、
「正体なくすほど酔ったあんたに付き合ってくれて、その後、家まで送ってくれて、なおかつ、翌日はお見舞いに来てくれたのよね? 河野先輩」
「だけど、エアコンかけっぱなしにするし、仕方ないとはいえ勝手にキーを持って帰るし、電話にたくさん着信残すし、その後、押しかけてきたんだってば」
 酔っ払いが風邪を引かないよう暖房をかけたのは河野先輩の気遣いだろう。ベッドまで運べば、翌日、意識を取り戻した沙織が大騒ぎする事は目に見えているし。鍵をかけ、キーを持ち帰ったのだってそう。沙織に何かあったら不安だったからだろう。だから何度も電話をしたのだろうし……。
 まったく河野先輩ってば。どこまでも紳士的すぎて、目も当てれられない。どうして、私じゃダメだったんだろうと明海は今さらながらに自問。
 と、その想いは深い穴の中に埋めたはずだった。
「沙織ぃ」
 と、恨みがましい口調で明海は呼びかける。
「あんた、それ。傍から聞いてるとノロケにしか聞こえない」
「はあ!? 何言ってんのよ」
「河野先輩、良い人だと思うわよ」
 どこまでも、腹立たしいくらい、良い人で終わってしまいそうな人。優しいとか紳士的とか言葉はあるけれど、もうちょっと踏み出さなきゃ恋なんて始まらないのに。
「沙織のことを考えての事だと思うわよ」
「そういう話じゃなくって……もう! 明海のバカっ」
 素っ頓狂な声を上げ、沙織は電話を切ってしまった。
「まったく……」
 明海は切れた電話を見つめる。
「それを言いたいのは私のほうよ。バカ沙織」

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2012/02/04

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