夢みたいで夢じゃない、夢見がちな話。

 夢みたいで夢じゃない、夢見がちな話……だと私が思う奇妙は話を一つ。
 彼女の名は――ミユキ(仮名)、どこにでもいるごく普通の女性。いい?

 ミユキはある朝、唐突に思ったの。「そうだ、遺書を書こう」と。
「そうだ、京都に行こう」とか、「そうだ、今日は約束があった」なんて、唐突に思いついたり、思い出すことって誰にでも一度は経験あると思う。それがどうして遺書を書こうと思ったのかは彼女にも分からない。たぶん、彼女が忘れているだけで、それは夢の続きであった可能性が高いんじゃないかと思う。
 遺書の書き方はネットに載ってたの。検索履歴に残ってたからこれは物的証拠でしょ。出てきた検索候補の中から、一番簡単なものを見本に、コピー用紙にボールペンで書いたの。まあ、若い彼女のことだから遺書って言っても、財産なんて大したものはないわね。お気に入りの品々を友人達に振り分ける、というお願いよ。
 ちなみに、彼女はある程度寝ぼけていても、まるで起きているかのような言動が取れるタイプの人間だということは知ってるでしょ。こういう事態はちょくちょくでは無いけれど、今まで全くなかったわけじゃないし。ここまでの規模での寝ぼけっぷりは初めてだけれど。
 後日、その遺書を見たけれど、ちゃんと通用する様式のものだった。寝ぼけていたからの行動力だったのか、寝ぼけていない私――いいえ、ミユキならもっとすごいものができるのか、誰にもわからないけど。
 さて、遺書を書き上げたミユキだけど、当然のこととして、白いワンピースに着替えて、海に向かうべく家を出たの。ここもまだ寝ぼけている状態だから、なぜって聞かれてもわからないわ。
 ちなみにミユキが白のふわふわしたワンピースなんて乙女ちっくなアイテムを持っていたのは、先日購入したハズレ多めの福袋に入っていたからよ。普段の彼女からは想像できないスタイルでしょ。
 電車に乗って海に向かっている途中、ミユキは空腹を感じたたしく、電車を降りてすぐのコンビニで食料品を調達してた。理性が完全に眠ってたらしく、欲望のままにカゴに放り込んだカロリー無視な危険物。成長期ならば歓喜するかもしれない高カロリー、高脂肪、高糖度な品々と言えばわかってもらえるかしら。ちなみにコンビニでの買いものとしては、目まいがする金額のレシートが財布に残ってたわ。
 買い物袋を手にミユキは気持ちよく海辺を歩いたの。こう言えば、波打ち際を歩いている光景を想像するかもしれない。でも、実際は幅の狭い堤防の上。コンビニの袋を手にふらふら歩いていたんだから、はた目から見たらちょっと危険に見えたかもしれない。実際はただ寝ぼけてただけなんだけど。
 ようよう堤防の先に辿り着いたミユキはそこでようやく目が覚めたの。ミユキ自身、訳がわからず、きょろきょろとあたりを見まわした。いつも通りベッドの中で目覚めるはずが、なぜか周囲が海なのだから、誰だって驚くでしょ。しかも手には大きめのコンビニ袋、かばんの中には見覚えのない自筆の遺書――。
「何してるの」
 声を掛けたのは釣り人だったと思う。
「……さあ」
 当然、ミユキはそう答える。それ以外答えようもないでしょ。
 そこから先はあなたの知っている通り。警察巻き込んで大騒ぎになって、あなたが身元引受人として来てくれてっていう。
 え? 仮にミユキの話なんて回りくどい言い方する必要ないんじゃないかって? でも、私だってそんな行動した覚えなんてないのよ。

ご覧いただきありがとうございました。〔2020/05/26〕

お題配布元:リライトさま:組込課題・文頭

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