「今日って雪降らせる必要あるの?」
セツが口をとがらせる。
「どうせ、恋人たちのホワイトクリスマスだとか言ってリア充がいちゃつくだけでしょ」
反抗期に差し掛かった健全十代女子は恋人達に手厳しい。
「そんなん言うたらあかんて」
「……僕たちは気象をコントロールできる立場じゃないんですよ……」
メイさん、ジンさんになだめられ、口を尖らせながらも作業場から雪の素が入った袋を運び出す。戸口におかれたそれを私は裏庭にある客車車両に詰め込んでいく。
全く、育っても可愛いなんて奇跡。マイエンジェル。なんて言ったら一週間くらい口を聞いてくれないから声には出せない。ああ、母の愛しさは溢れそう。
「嬢ちゃん、天気予報で言ってただろ。今夜は雪だって」
隊長がのんびり声を上げる。
「だからって、天気予報通りに行動しなくてもいいじゃん」
「別に天気予報に合わせてへんよ。天気予報は参考にしてんの。なあ、ジン」
「……予報は予報だからね……」
「意味わかんない」
言いつつも、働いてくれる我が子は良い子。
夫はクリスマスイブは実家の家業に忙しくて家に帰ってこれない。帰ってくるのは26日だけど、帰ってきた途端、疲れすぎて死んだように眠ってる。
改めてコートを着込み、庭にでる。冷たく凍るような風が吹いている。ああ良い感じだ。
「隊長どう?」
「これはいい風だな」
「じゃ、出発しようか」
私は車両に乗り込む。
私とセツ。二人載り込んでも車両には空きスペースがある。
数年前まで押しかけてきていたシヅは北の方に嫁いで行った。今はどこかの町で、どうやって見つけたのかうちと同じ家業の家で元気にしているらしい。
天気予報を見ていて、やりすぎないでと心から祈る機会は増えた。
「でも、ママ。この量じゃすぐに撒き終わっちゃうんじゃない?」
「深夜まで降らせたいの?」
セツはむすっと首を振る。一体どっちを望んでるんだか、可愛い。
町の上空をぐるっと一周。雪の素を大気にばら撒く。冷たい空気で凍り、風に流され、雪になって降り積もる。
「これ、雪虫みたいだよね」
撒きながらセツは言う。
虫嫌いの癖に、どこでそんな単語を覚えたんだか。たぶん、ファンタジー的な意味合いで言っているんだろうな、この娘。この辺にはいない虫だし。夢を持ってるセツは可愛いので指摘しないでいてあげよう。
「あ。あれ、パパじゃない?」
娘の指さす方向に、移動するトナカイとそり。あっという間に見えなくなった。今年も忙しくしているようだ。
楽しいクリスマスイブになりますように。
私は願いながら、雪の素を撒く。
ご覧いただきありがとうございました。〔2020/05/25〕
お題配布元:Discoloさま クリスマス5題