10:「トリック・オア・トリート!」

「ジャック・オー・ランタン!」
 容姿端麗冷酷非道眼鏡魔道師が絶対無敵な必殺呪文を容赦なく繰り出す。クールな横顔に揺れるマント、全体シルエット入っての魔法効果の描き方。ここは五重丸。
 その後、コマが変わって大ゴマを使って『ドドーン』と起こる大爆発。壊れる街並み、吹き飛ぶ残骸、そして巨大な敵に穴があく様子……ああ、本当にこの作者様って描きこみスゴイ。
 ただ、この漫画を読んでいる読者はみな思っているはずだ。
 なんで、毎度呪文が変なの!
 人物の描写も風景のパースのとり方も理想的。キャラクターの作り込みも衣裳や道具も、コマ割りの仕方もストーリーの展開も神ってレベル。なのにこの作者に対し、唯一許せないのは名前に関しての感性だ。
 シリアス寄りの話ばかり書くんだったら、中二病的な詩を詠唱する呪文とか、適当にドイツ語を呪文にするとか、格好良さげな漢字に意味不明な読みを振るとか……やり方は色々あるはずだ。
 敵はその攻撃にも倒れず、生き残った部位から変体する。軽くなることでパワーは落ちるがスピードが上がる。仲間たちが別れて、分裂した敵に攻撃を加えてゆく。
 こういう中世風異世界冒険マンガで主人公が魔道師の場合、パーティー組んでるメンバーはたいてい戦士とか武道家の直接攻撃系、そして回復系僧侶と主人公とは違う系統の魔道師と相場が決まっている。そして、隅っこで震えてるのは戦力にならない、可愛い道先案内人。
 魔道師は先ほどの攻撃で魔力を消耗し、疲れた色を顔に浮かべながらも、敵の前に立ちふさがる。
 魔道師の性格上、人助けは進んでしないが、立ちふさがるものは全力で排除する、という現実にいたら実に面倒くさいタイプ。
 相手はスピードが上がったからか、先制攻撃。近づいたのは失敗か、というところで、
「トリック・オア・トリート!」
 魔道師の必殺呪文が炸裂する。
 なんだよ、この呪文。最悪通りこして意味不明。この分じゃ12月には「メリークリスマス」、1月には「ハッピーニューイヤー」とか唱えてそうだ。
 私がこの物語に入りこめないのは、全部この呪文のせい。なのに、何故だか人気なんだよな、この作品。
 読み終わった雑誌を棚に戻し、コンビニを後にする。
 来週もまた立ち読みでいいか。

ご覧いただきありがとうございました。〔2020/05/25〕

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題

©2001-2021 空色惑星