ミサキは可哀そうな子だ。友人である私にはそう思えてならない。なぜならミサキが一番苦手にしているものは団体行動だからだ。
大家であるリツコさんとハロウィンパーティーの約束を交わしたのは10月始め。その日から、ミサキは目に見えて憔悴していった。一週間前。三日前。前日。カウントダウンするように、目に見えてミサキの死相が濃くなっていく。
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫……」
心配する周囲の声に、ミサキは頑張って笑顔を見せるが、どう見たってそれは地獄の門を開く罪人の顔、もしくは世界の終末を目の前にした人の顔。
「明日になったら……明日になったら……」
つぶやく声は呪詛のよう。
「ミサキ、ボイコットしてもいいんだよ」
風邪を引いたとか適当なことを言って。管理費3カ月間500円割引って特典がなくなるけど、リツコさんのボランティアにつきあわない人だっているのだ。
けれど、
「それはできない」
強く否定する。ミサキがなぜ、リツコさんとの約束に命をかけられるのか私にはわからない。
当日。
死相も浮かび、ノーメイクで完璧にゾンビに扮したミサキが集合場所にいた。
「完璧ね」
リツコさんは何も気づいていない様子で言う。きっと気づいていないのだろう。リツコさんは細かい気配りができる反面、なぜか大きなことには気づかない。
近所の学童施設へハロウィンのお菓子を配るボランティア。それはいいんだけど、どうして配る側も仮装する必要があるのかわからない。
私は簡単に魔法使いの恰好。黒いワンピースにマントがわりの黒いストール。帽子だけは買ったが、コスプレ用の安物だ。
ボランティアメンバーは数百メートルを歩いて現場に向かう。毎年恒例の仮装行列。
お菓子はリツコさんたちが前日までに小分けして、袋詰めしてくれてるのを配るだけ。
子供たちにお菓子を手渡す。ミサキは安堵と疲れから死にそうな顔をしている。
そのお菓子、配るよりもミサキが食べて栄養補給したたほうがいいんじゃないだろうかって顔色で。
実際、子ども達もミサキだけは異様に怖がっていた。けれど、リツコさんに言わせれば完璧らしい。
「いい子にしてないと、ゾンビがくるわよ〜」
なんてリツコさんは楽し気にお菓子を渡してたけど、それってハロウィンとして適切なのか疑問が残る。
お菓子のプレゼントは在庫がすぐにそこをつき、私たちは学童施設を後にする。
そして一戸建てのリツコさんちまで行進、そこで謝恩を兼ねたハロウィンパーティーだ。
ミサキはようやく蜘蛛の糸を見いだしたカンダタのような顔。予定が終わりそうなので、ようやく生き返りそうな顔色になってきた。まだ予断は許されないけれど。
リツコさんちに到着する。通された部屋には何もない。まさか、の予感は当たった。
「材料は用意しといたから、今からみんなで作りましょう。餃子パーティーよ」
リツコさんは一人、服を着替えてやってきた。
ミサキはふらふらと座り込む。あと五分もしない間にミサキは死ぬなと思った。
ご覧いただきありがとうございました。〔2020/05/25〕
お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題