07:子供達の大冒険

「親目線で見てみると、子どもの頃って、ろくでもない日々を過ごしていたもんだと呆れるね」
「突然何よ」
「いや、今の子ども達の姿を見てるとさ、心配だ不安だって言っても、俺の子供時代に比べりゃ大したことないなと思って」
「ああ、そう言う話」
「そう。子どもって変なこだわりっていうか、勘違いっていうかあるだろ。俺は小さいころ、『動物園』と『猫屋敷』とか、『公園』と『川』の違いをわかってなかったんだ」
「わかる。私もね、今だから言えるけど『材木置き場』と『丸太置き場』が同じものだってこと、わかってなかったのよ」
「それ、危なそうな話だな」
「そうよ、大人目線でみると実に危ない話なの。小さいころ、大人には『材木置き場』で遊ばないようにさんざん言われてたんだけど、私たちはそこを『丸太置き場』って呼んでたの。だからいつもそこで遊んでた」
「おやおや。君にそんな不良少女時代があっただなんて。危ない目にあったことは?」
「フフっあるわよ。笑い事じゃないけど――丸太の仮置き場みたいな感じでさ、単に積み上げてただけだから上に乗っちゃってバランス悪いと崩れるのよね。で、崩れた丸太をね、子ども達数人でまた積み上げ直すの。足元不安定なのに」
「うちの子がそんなとこで遊んでたら、二度と外に遊びに行かせないね」
「そうよね。なのに、あの頃全然危ないなんて思ってなかったのよね。私が馬鹿だったのか、子供だから想像力がなかったのか」
「世界を知らなかっただけじゃない」
「そういう言い方もあるわけだ。で、『猫屋敷』ってのは?」
「ああ、近所に変わりもんの婆さんがいてさ。そこが『猫屋敷』になってたんだよ。猫に餌をやる、っていっても頭数が多いから、狭い庭先に餌を撒くんだよ。そしたらさ、猫だけじゃなくカラスとかハトとか動物があつまってくるわけさ」
「あー。動物がいっぱいいたら子供的にはたしかに『動物園』だ」
「そう、ミニ動物園ってやつとかわんないだろ、やってることも。だから、子供心にその『猫屋敷』を『動物園』だって思いこんでてさ。近くを通りかかると猫の姿が見えるんだよ、緑のネットフェンス越しだったんだけど」
「ああ、ますます『動物園』っぽい」
「それに触れないのは『動物園』も一緒だろ」
「ふれあい広場がなければね」
「俺は毎日『動物園』に行ってたって認識だった」
「なるわね、そりゃ」
「そしたら、ある日、隕石が落ちてきた」
「誰かに指摘された?」
「そうだよ。あれは『動物園』じゃないってね。どれだけショックだったか」
「そりゃそうだろうね。で、あと一つの『公園』と『川』の違いってのは?」
「たまに親と一緒に出かけてた『公園』ってのがとにかく広くてさ。そこで冒険するのが好きだったんだ」
「男の子らしい」
「俺にとって『公園』は、樹がたくさん生えてて、自分より高い草が生えてて、小川とかあって、人が一人通れる様な通路がある場所だと思ってたんだよ」
「そこは、自然公園だったってこと?」
「そう、山を造成した感じの」
「その話、ヤバい感じの匂いしかしないわ」
「俺はある日、『公園』に行ったらよくやってた沢登りをしたくなったんだ。ちょっと大きくなってた俺は少し歩いた先に『川』があることを知ってたわけだ」
「はいはい」
「で、そこの川岸には背の高い草が生えてて、その上流には林が見えた」
「あーそれは『公園』だ」
「だから俺は親に、『公園』に遊びにいってくるって言いおいて出かけた」
「ご両親は町内の児童公園に遊びに行ったくらいに思ったわけね」
「そう。その頃の俺は、児童公園を『お散歩』ってところだと思ってた。よく連れていかれたお散歩の執着地点だったから」
「重大な認識の違いだ」
「だから、大騒ぎさ。迎えに行ったらいないって」
「確かに大騒ぎになるわねえ。『公園』に行ったはずなのに」
「なるだろ。俺は『公園』だと思いこんでるし、まさか親たちが『近所の川』って呼んでるとこだとは思ってないし。しかも、『近所の川』には一人で行っちゃいけないことになってたし」
「フフフっ」
「良い経験だったのか、悪い経験だったのか」
「大冒険だったわね」
「親はハラハラしてただろうけど、楽しかったな」

ご覧いただきありがとうございました。〔2020/05/25〕

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題

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