03:ドラキュラと狼

 同じ寮に暮らしてる、ってだけで月に一度、鍋パしたり、たこパしたり。そんな関係になって半年。今月は、ハロウィンパーティーらしい。
 男だけで。

 一週間ほど前、主催兼会場提供をしてくれてる1階角部屋の安藤先輩が謎の箱を持って現れた。
 ハロウィンパーティーと言えば仮装だろ、とのこと。箱の中には小さく折りたたまれた紙。そこに指定された仮装をそれぞれして来い、とのこと。
 人数分以上の紙。何を書かれているのか、恐ろしい。
 変なのだけは絶対嫌だと思いつつ、一枚引き当てる。
『ドラキュラ』
 安藤先輩に見せる。
「定番だな。だが、だからこそ難しい」
 眼鏡をきらりと輝かせ、不敵に笑う。
 そうなのか? 普通に黒っぽい服を着りゃなんとかなるだろ。
 短絡的に考える。
「安藤先輩は何なの?」
 尋ねれば、その場で引いてくれた。
『狼』
 シンプルに一文字。
 狼男ではなく、狼。ってことは着ぐるみだろうか。
「当日をお楽しみに」
 マッドサイエンティストみたいに笑いながら、安藤先輩は参加料を徴収して去っていった。
 
 当日、いつもの時間にいつもの部屋に集まった俺、藤沢、大倉、小牧。
 安藤先輩自筆の男らしい筆文字『友達も恋人もいない男達のための集会』垂れ幕に少しかぶって『ハッピーハロウィーン』の看板。メルヘンチックにポップな書体で書かれている。
 テーブルには溢れるほどの安藤先輩お手製の料理。安藤先輩は何をやらせても器用だが、協調性はない。
「お前ら仮装は?」
 料理を並べながら安藤先輩が言う。
 確かに言いたくなる気持ちはわかる、が、一番の問題は主催者である黒エプロン姿の安藤先輩。普段と何も変わりない。
「安藤先輩こそ仮装は?」
 安藤先輩はにやにやと笑いながら、エプロンをとった。
 胸のところに大きく「男は狼」と書かれたカットソー。
「それ、仮装?」
「仮装だろ」
 思ったより受けなかったからか、
「それよりお前らの恰好はどうなんだよ、ドラキュラってよりただの黒づくめ、幽霊っていうよりKKK、フランケンは顔に落書きしてるだけ、ミイラ男ならもっと包帯巻いて来い。コスプレが中途半端過ぎんだよ」
 言いたいこと言って、ドリンクを開けて一口飲む。
 ちなみにドリンクは各自持参だ。
 俺たちも慌てて席につき、「ハッピーハロウィーン」と呟いて、適当に乾杯して料理を食べ始めた。

ご覧いただきありがとうございました。〔2020/05/25〕

お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題

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