まるでヘンゼルとグレーテル。
私はそう思いながら、道端に落ちていた大人の親指ほどの大きなビー玉を拾い上げる。これで7個目。ポケットに入れ、またしばらく歩く。
ころころ、と今度は数個まとめて落ちていた。引きずられ、レジ袋の底の穴が大きくなってきたのだろう。
キラキラ輝くガラス玉は幼い子供たちにとって、宝石のようなものなのだろう。様々な色、模様、少しの違いでそれらに価値を見出し、興奮している様子は微笑ましい。
目の前の公園に辿り着く。キャッキャと子供たちのはしゃぎ声。
大人の足ならばたいした距離じゃない、幼児向けの遊具がぽつんと置かれた小さな公園。けれど幼い子供たちからすれば、そこは遊園地にも代えがたい遊び場であり冒険基地。
「ほら、帰るよ」
「チカちゃん。まだ来たばっかりだよ」
滑り台の上にいたお兄ちゃんのフウタ君が不平気味な声を上げる。
小さいくせに減らず口はきけるんだから。
「お昼寝の時間でしょ。君たちがお昼寝してくれなきゃ、チカちゃんがママに怒られるんだけど」
「ママいないもん」
「お仕事だもん」
幼児は可愛い反面、小憎ったらしい。なんせあの姉の子である。
「ママに言いつけるよ」
「言わないよ、チカちゃんは」
妙に確信めいた言葉。近寄ってきた弟のカズ君から買収の密談。
「チカちゃんに良いものあげるから、ママには内緒ね」
幼児の内緒話はなぜにくすぐったいのだろう。
とても大切なもののように渡された1個のビー玉。
「大人はこれ、食べるんでしょ?」
意味が分からず、ビー玉を見つめていると、
「パパがね、言ってたの」
なんとなく、話が見えてきた。
子ども達が言っているのは、たぶんチュッパチャップスのことだ。ってことは、義兄がまた禁煙し始めたのだろう。
飴を食べている姿を見られた義兄は子供たちに飴の代わりとしてビー玉を与えたんだろう。姉が幼い子供たちに飴を与えることはないから。
「チカちゃん、内緒ね」
重ねて言うから、私はポケットからビー玉を取り出す。
「チカちゃんはいっぱい持ってるからいらないよ。フウタ君、ビー玉あげようか」
レジ袋に穴があいて、空の袋を持っていることにようやく気づいたらしい。
子ども達は大騒ぎしながら落ちたビー玉を回収し始めた。
この子たちにはまだビー玉とキャンディの区別がつかないらしい。
ご覧いただきありがとうございました。〔2020/05/25〕
お題配布元:エソラゴト。さま →ハロウィンで10題